●匠総合法律事務所
東証2部上場の不動産・建設会社「スルガコーポレーション」が所有したビルをめぐる弁護士法違反事件が話題になっています。
うちの事務所にも「立ち退きにあたって、業者を使ってはいけないのですか?」という質問が殺到しており、私は、「明け渡し交渉をするには、所有者本人か弁護士でなければなりません。」と説明しています。
今回、明け渡しに関し、立ち退き交渉の報酬として10億円以上が支払われたと伝えられていますが、10億円ものコストをかけるのであれば、弁護士を使っても大金のおつりが出るはずです。
どうして、あえて立ち退き業者を使うのか?
それは何と言っても時間との闘いだからでしょう。
弁護士に頼んでも弁護士は腰が重く、なかなか動いてくれない。それよりは、フットワークが良く、しかも強面の業者に頼んだ方が「早い」という理由だと思います。
今回の事件のキーワードである「立ち退き」「暴力団」という言葉を新聞でぼんやり見ていたら、今から約9年前に私が手がけた事件を思い出しました。
その事件は、ある土地の駐車場に4つの暴力団の事務所が車を勝手に駐車場代わりとして使用しており、その土地の所有者が困って法律相談をしてきたという事例です。
この事例で、私は、まず、相手方となる暴力団事務所に明け渡しを求める内容証明郵便を送りました。
ところが、返事が全く来ない。
次に、現地に行くことにしました。
私がまず、向かったのが警察署。不動産を不法占拠しているのだから警察に動いて欲しいとお願いしたのです。
ところが、警察署は、「あの組は、○○系だ」などの話をするのですが、一向に動いてくれようとしない。じれったくなった私は、「では、私が行きますが、もし何かあったときには、助けてくださいね!」と言い、単身で暴力団事務所に乗り込んでいきました。
暴力団の事務所が各フロアーに4件入ったビルに乗り込み、上の階から順番に「こんにちは。弁護士の秋野と申します。以前、内容証明郵便を送った弁護士ですが、お話をしたいのですが」と交渉を始めました。
当時、25歳の駆け出し2年目弁護士で、知っている人は知っていると思うのですが、私は童顔でしたから、今から思い出すと、滑稽な交渉です。
暴力団員から猛烈に凄まれましたが、幸い、私は心臓だけは非常に強いので、動じることなく、最後には「最初から内容証明なんか送らずに話に来れば良いんだよ」と言ってもらい、4件全ての暴力団事務所に納得してもらって、車を移動してもらいました。
ヘトヘトに疲れ果てた私は最寄りの駅に依頼者に送ってもらったのですが、その道中で「先生が殴られちゃえば、一発で話がすんだかも知れませんね」と冗談を言われましたが、私は笑う元気もありませんでした。
要するに、立ち退き交渉では、面と向かって交渉をすることが何より大事です。
今回、弁護士法違反事件と言われていますが、要するに弁護士はフットワークが悪いからいけない。
うちの事務所では、永瀬英一郎弁護士が、不動産案件を専門的に取り扱っており、店舗などの立ち退き交渉や裁判をやっています。現場主義を第一にかかげるうちの事務所のポリシーでどんどんフットワーク良く動いています。
どんどん弁護士がフットワーク良く動くようになれば、立ち退き交渉を行う業者もいなくなるだろうし、そういった業者から暴力団に資金が流れることもなくなるでしょう。
今回の事件は、「東証2部上場企業」「暴力団の資金源」というキーワードがそろった事件で話題を呼んでいますが、我々弁護士は、こういった問題が出ないように、法律問題に対しては、しっかりとフットワーク良く、依頼者が満足するような弁護活動を行わなければならない、と改めて自覚させられました。