●匠総合法律事務所
前回、前々回とスルガコーポレーション事件に関する解説をこのブログでしたところ、多くの質問を頂きました。
質問の多くは、「弁護士でなければ立ち退きをやってはいけないの?」というものです。
それに対する答えは、前回のブログのとおり、「弁護士法上は、ダメです」というものなのですが、立ち退きを業務として請け負っている業者もいるくらいですから、今更「ダメ」と言われても困ってしまう業者が沢山いるはずです。
ただ、裁判の世界では、立ち退き業務は弁護士法72条違反であるとの決定も出ていますので、やっぱり「ダメ」なのでしょう。
今回は、この裁判所決定について紹介したいと思います。
広島高裁平成4年3月6日決定
ビルに居住している者全員を退去させれば高額の報酬が得られるとの業務委託契約は弁護士法七二条に違反する無効なものであると判断された事例
この事案では、立ち退き業者とビルオーナーとの間で、平成2年7月5日、立ち退きに関する業務委託契約(以下、本件契約という。)が締結されました。
立ち退き業者は、本件契約に基づきビルオーナーから受任した事務、すなわち同契約書記載のビルオーナー所有の建物(以下、本件建物という)に現に賃借人として居住している者との間の賃貸借契約を解除し、右居住者らを本件建物から退去させる事務を契約上の受託業務完了期限である平成2年12月29日までに完了しました。
そこで、立ち退き業者は、ビルオーナーに対し、本件契約にて、約定委託料は2億9500万円と定められていた事から、残金1億4629万2423円の支払を求めました。
この裁判で、ビルオーナーは、本件契約は、弁護士法七二条で、弁護士でない者が報酬を得る目的で業として行うことを禁じられている「一般の法律事件に関して、法律事務を取り扱うこと」を内容とする契約であるから、民法九〇条に照らして無効であり、したがって立ち退き業者には約定委託料の請求権はないと言って反論しました。
これに対する広島高裁決定の内容は以下のとおりです。
1 弁護士法七二条は、弁護士でない者に対して、報酬を得る目的で、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることを罰則をもって禁じているから、右要件に該当する契約が同法に違反し、民法九〇条の公序良俗に反する法律行為として無効であることはいうまでもない。
そうして、右にいう法律事件とは、訴訟事件、非訟事件等同条に例示されている事件を含む広く法律上の権利義務に関し争いがあり、疑義があり、または新たな権利義務関係を発生させる案件をいうが、「その他一般の法律事件」とは、同条に例示されている事件以外で実定法上事件と表現されている案件(例えば、調停事件、家事事件、破産事件等々)だけではなく、これらと同視し得る程度に法律関係に問題があって事件性を帯びるもの(すなわち、争訟ないし紛議のおそれのあるもの)をも含むと解するのが相当である。
前示のとおり、立ち退き業者が本件契約によりビルオーナーから受任したのは、本件建物に居住する賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解約し、賃借人らに本件契約で定められた期限までに本件建物から立ち退いてこれを明け渡して貰うという事務であるところ、疎明資料によれば、本件建物は築後20年以上経て相当老朽化しており、賃借人らの大部分は、良い移転先があり、相当額の立退料が貰えるのなら円満に立ち退いてもよいとの意向であったことが窺われるから、本件事務を受任した立ち退き業者において相当の立退料さえ支払えば、立退交渉は円満にまとまるとの見通しがあったことが窺われないではないが、仮にそうであったとしても、立退猶予期間や、立退料の額をめぐって賃借人らとの間に紛議が生ずることは事柄の性質上十分予想されるところであり、現に疎明資料によれば、立ち退き業者代表者も、本件事務は立ち退き業者だけでは荷が重いし、法律的判断も必要であるから弁護士が必要となると言って、本件建物及びその敷地(以下、本件土地という)の所有者から売買の仲介を頼まれた業者から弁護士の紹介を受けていること、同弁護士は、立ち退き業者の代理人として、賃借人らとの立退交渉にも携わり、立退きの合意書の作成にも立ち会っていることがいちおう認められることに照らしても、本件契約に基づく立ち退き業者の事務が弁護士法七二条に規定する「事件」性を有していたことはいうまでもない。
そうして、同法七二条にいう「その他の法律事務」とは、広く法律上の効果を発生、変更する事項の処理を指すものと解されるところ、本件契約は、ビルオーナーは立ち退き業者に対し、同立ち退き業者において、本件建物の賃貸人の代理人として、その賃借人らとの間で本件建物に係る賃貸借契約を合意解除し、当該賃借人らに本件建物から退去してこれを明け渡して貰うという事務を委任し、これに対し委任者たるビルオーナーは受任者たる立ち退き業者に対し前示の報酬を支払うという契約(委任契約)であるから、右受任者たる立ち退き業者の事務はまさに同条の法律事務そのものというべきである。
したがって、立ち退き業者は、弁護士でないのに、報酬を得る目的で、法律事件に関して法律事務を取り扱ったことになる。
そうであるとすると、本件契約は弁護士法七二条に違反する契約として、民法九〇条に照らして無効の契約であり、従って立ち退き業者はビルオーナーに対して本件契約に基づく報酬請求権を有しないのではないかという強い疑いがある。
(裁判長裁判官 篠清 裁判官 宇佐見髓j 難波孝一)
この広島高裁決定は、まさに立ち退き業務=事件性があり、弁護士しか取り扱えない業務であると明確に言っています。
このような判例が平成4年に出ていながら、どうして今まで立ち退き業務が弁護士でないものが堂々と行ってこれたのか、不思議で仕方ないところなのですが、今後は、弁護士がしっかりと依頼企業のニーズに合うようにスピーディーに行動していかなければならない、と思っています。